中国のスマートフォン大手Xiaomi(シャオミ)が、同社初のEVであるSU7を発表しました。
シャオミは2010年に中国の北京に設立されたスマートフォンメーカーですが、コストパフォーマンスの高いスマホで大成功を収めた後、ウェアラブルデバイスやスマートホームデバイスなどにラインナップを拡大しています。2021年3月には2000億円を投資して電気自動車に参入することを発表し、2023年12月に最初のモデルSU7の発表に至ったわけです。
日本からも同じくエレクトロニクス製品の大手であるソニーがホンダと提携して電気自動車への参入を表明していますが、シャオミは3400人のエンジニアを投入しソニーの計画よりも2年ほど早いペースで開発が進んでいるようです。
では早速シャオミSU7の詳細を見てみましょう。
Xiaomi SU7
デザイン
車体の大きさは、全長4997mm 全幅1963mm 全高1455mmと大型のセダンになっています。
エクステリアは、意外にも伝統的な自動車メーカーがデザインしたかのようなスポーツカーを連想させるスタイルになっています。ソニーカーことソニーホンダモビリティのAFEELAが、エクステリアデザインを極端に未来的な方向に振っているのとは対照的です。SU7は見方によっては電気自動車にすら見えないかもしれません。
この辺りはエレクトロニクス製品メーカーがEVに参入するにあたって、従来の自動車メーカーが出さないような革新的なエクステリアデザインのモデルを開発するのか、もしくはより多くの消費者に受け入れられやすいように見慣れたデザインを採用するのか選択が難しい戦略的なポイントになりそうです。
シャオミはスマートフォンでもどちらかというと大衆向けのポジションをとっているメーカーなので、EV参入でも少数にしか受け入れられないようなあまりにも革新的なデザインはさけたのかもしれません。プレミアム寄りのソニーとマスマーケット寄りのシャオミという立ち位置の違いがエクステリアのデザインにも表れているということでしょうか。
EV性能
意外に保守的なエクステリアデザインとは対照的に、EVとして投入されているテクノロジーは最新鋭のものばかりです。
シャオミ・ハイパーエンジンと名付けられたEV駆動用モーターは自社開発しており、シングルモーター版のSU7は220kWの出力と400Nmのトルクで時速0-100kmの加速が5.28秒、SU7 Maxと呼ばれるデュアルモーター版のグレードは425kWの出力と838Nmのトルクで時速0-100kmの加速がわずか2.78秒とスーパーカーレベルの加速性能を持っています。また、モーターを制御するコントロールユニットも自社開発しておりこちらもシリコンカーバイドを採用した最新の設計になっています。
バッテリーは中国CATLが供給しており、73.6kWhと101kWhの2バリエーションが用意されます。航続距離はそれぞれ668kmと800kmです。バッテリーが車体の構造体も兼ねるセル・トゥ・ボディ(CTB)方式を採用しており、シャオミによれば搭載効率78.8%で世界最高値を達成しているということです。800Vの超高電圧システムはバッテリーの充電も高速で、5分の充電で220km走行分また15分の充電で510km走行分の充電が可能だそうです。
自動運転・運転支援システム
SU7には、Xiaomi Pilotと名付けられた運転支援システムが採用されています。
センサー群としては、LiDAR1台、レーダー3台、カメラ11台、超音波ソナー12台が搭載され、それらを統合する半導体として2個のNVIDIA製Orin Xチップが採用されています。制御ソフトは自社開発されており、高速道路や市街地に加えて駐車場での運転支援を可能にしています。
このシャオミによる自社開発の運転支援システムが、自動車初参入とは思えないレベルの高度な内容になっています。
例えば、これまで自動運転や高度運転支援システムでは事前に制作されたデジタル地図を参照しながら自車が道路上のどこを走っているのかを判断し進行方向などを制御するのが一般的でしたが、Xiaomi Pilotでは最新の人工知能技術を応用することで、リアルタイムに道路の形状を認識しデジタル地図無しで市街地道路上などでの運転支援を実現するということです。現状ハンズフリー運転支援システムなどは事前にデジタル地図が整備されている道路上でしか使えず、地図を整備し最新の道路状況に合わせて更新していくのに膨大な労力とコストがかかっていることを考えると、地図に頼らないシステムが実現されれば画期的な進歩です。
また、センサーで検出した道路上にある物体を3次元の面としてシミュレーションしてから認識することで従来は不可能だった物体も認識できるようになっているほか、今まで非常に難しかった機械式駐車場への自動駐車もAIを活用することで実現しているということです。
実際にSU7の納車が始まるまで性能の評価は待たれますが、発表内容を見る限り世界最先端クラスの自動運転・高度運転支援システムの開発を自前で行っているようです。
デジタルコックピット
スマホメーカーであるシャオミの本領が発揮されているのがなんといってもデジタルコックピットでしょう。テスラをイメージさせる16インチの大型タッチディスプレイが中央に装備され、タブレット感覚であらゆる機能を操作できるように設計されていることがわかります。
ユーザーエクスペリエンスもスマホやタブレットデバイスを強く意識したものになっており、ドアが開錠されて1.49秒でシステムが起動し車内に持ち込まれたスマホも自動的に認識されるためタッチスクリーン上のアイコンをワンクリックするだけで車とスマホが接続されます。
シャオミは今回のEV立ち上げに伴って、スマホで展開していた自社OSであるMIUIを次世代のHyperOSに切り替えることを発表しています。今後はスマホやIoTデバイスに加えてEVも全てHyperOSを搭載することで、エコシステム全体をシームレスに繋げていくことを目指しています。これにより5000を超えるシャオミのタブレット用アプリが車内で利用できるようになるほか、1000種類を超えるシャオミのスマートホームデバイスも自動的に車から認識され面倒な設定なく遠隔操作できます。またセンターコンソールには後からハードウェアを拡張するためのポートも用意されており、IoTの機能をハードウェア面でも拡張できるようにもなっています。
このようなクルマと外の世界がシームレスにつながる体験は、シャオミだからこそ実現できる付加価値といえるでしょう。
まとめ
気になるSU7の価格は発表されていませんが、スマートフォンではハードウェア本体を安く販売してソフトウェアやサービスなどシャオミのエコシステムにユーザーを誘導して利益を上げるビジネスモデルを展開していますので、電気自動車でも同様のアプローチを取ることが想定されます。
シャオミは「Human x Car x Home」を新戦略に掲げて自動車を含めたトータルエコシステムでビジネスを展開していく目標を掲げていることからも、EV本体の価格は戦略的に低く抑えられたものになることも想定されます。
ソニーもプレイステーションでは、ゲームコンソール本体を利益なしか赤字でも売ってプラットフォームの利用者を増やし、のちにソフトとサービスで利益を上げるビジネスモデルを実践しています。EVにおいてもソニーとシャオミのビジネスモデルがどのようなものになるのか注目されるところです。またプラットフォームビジネスに慣れていない従来の自動車メーカーが、こうした他業種からの新規参入メーカーにビジネスモデルでどう対抗していくのかも注目されます。
今回EVへの参入に際して、シャオミは最終的に世界トップ5の自動車メーカーになるという目標を発表しています。歴史を振り返ると1980年代に日本の自動車メーカーは3から4年の期間で新型車を開発し、5から7年かけていた欧米の自動車メーカーを圧倒して世界でのシェアも高めていきました。今、中国のメーカーが日本のメーカーを上回る早いペースで新型車を開発しているのは、かつて日本車が欧米のメーカーを追い詰めて行った歴史と重なる面があります。
驚異的なスピードで自動車に参入したシャオミから、今後も目が離せません。
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