950万台を記録した中国自動車市場2023年上半期の新車販売ですが、ブランド別販売台数ランキングが発表されていましたので見てみましょう。
最近各方面で言われる日本車の衰退というのは本当なのでしょうか。
2023年動向
近年は中国の地場メーカーが徐々に力をつけてきており、2023年上半期の新車販売台数にも引き続きその傾向が現れています。
実際に、2023年上半期に最も新車を売ったのは地元中国のBYDとなりました。長年中国でトップブランドだったフォルクスワーゲンは今期販売台数2位に陥落しています。3位はトヨタで徐々にフォルクスワーゲンとの販売台数差を縮めています。4位にホンダが入り、5位は地場メーカーの長安汽車となりました。
上位5ブランド中に中国地場ブランド2社、ドイツ系1社、トヨタとホンダの日系2社がランクインとなり、日本車が健闘しているように見えなくもありません。
ところがデータをもう少し細かく見てみると少し違った様子も見えてきます。
ランキングデータ
ブランドランキング
ランキングに販売台数、前年比、シェアを加えた表がこちらです。
順位 | ブランド | 販売台数 | 前年比 | シェア |
1 | BYD | 1,098,409 | 72.09% | 11.65% |
2 | フォルクスワーゲン | 982,290 | -1.60% | 10.14% |
3 | トヨタ | 797,605 | -0.67% | 8.30% |
4 | ホンダ | 527,484 | -21.59% | 5.96% |
5 | チャンアン (長安) | 467.194 | 19.91% | 4.50% |
6 | ジーリー (吉利) | 402,003 | 6.04% | 3.92% |
7 | ウーリン (五菱) | 385,778 | -11.38% | 3.85% |
8 | BMW | 332,744 | 7.24% | 3.38% |
9 | 日産 | 295,278 | -25.19% | 3.12% |
10 | テスラ | 294,105 | 48.86% | 3.09% |
中身を見てみるとBYDはなんと前年同期比72%増で販売台数1位に躍り出ているのが分かります。そのほか中国の地場メーカーは長安が20%増、吉利が6%増と堅調です。
首位BYDを追うフォルクスワーゲンとトヨタはそれぞれ約1.6%と0.7%減となっており、どうにか前年並みの販売台数を維持しているものの、大幅に販売が伸びている中国地場メーカーに対して相対的にシェアを落としていることがわかります。
さらに、ホンダと日産に至ってはそれぞれ約22%と25%も販売台数が減ってしまっており、どうにか販売台数を維持しているフォルクスワーゲンやトヨタと比較しても相当厳しい販売状況であることが見て取れます。
1位のBYDは、バッテリーEVとプラグインハイブリッド車しか販売していない電動車専業となっています。New Energy Vehicle(NEV)と呼ばれる電動車が中国自動車市場全体の32%まで伸びており、BYDの躍進を支えた背景となっています。
車種別ランキング
次に車種別販売ランキングを見てみましょう。
順位 | ブランド | 車種 | 販売台数 | パワートレイン |
1 | テスラ | Model Y | 203,932 | BEV |
2 | BYD | Qin Plus (秦) | 200,274 | BEV / PHEV |
3 | BYD | Song Plus (宋) | 176,526 | BEV / PHEV |
4 | 日産 | Sylphy | 158,635 | ガソリン / HEV |
5 | BYD | Dolphin | 153.401 | BEV |
6 | フォルスクワーゲン | Lavida | 151,762 | ガソリン |
7 | BYD | Yuan Plus (元) | 141,077 | BEV |
8 | ウーリン (五菱) | Hongguang Mini (宏光) | 122,037 | BEV |
9 | フォルクスワーゲン | Sagitar | 118,758 | ガソリン |
10 | チャンアン (長安) | CS75Plus | 115,891 | ガソリン |
テスラ Model Y
2022年単一車種として世界販売台数第1位となったテスラのモデルYが中国市場でも2023年上半期販売台数第1位となっています。
日本では軽のガソリン車が販売台数1位なのに対して中国ではスマホ化された電気自動車が第1位となり、消費者の好みにかなり差があることがわかります。
ちなみに、少し意外な気もしますがトップ10にテスラのモデル3は入っていません。
BYD Qin Plus
販売1位のテスラモデルYに僅差で2位となったのは、地元中国BYDのQin Plus(秦、チン)となりました。
もともとガソリン車として販売されていたモデルですが、現在は中国でNEVと呼ばれる充電可能な電動車にあたるBEVとPHEVモデルのみの販売になっています。BEVは520km、PHEVは電気のみで82kmの走行が可能です。
インテリアもテスラを意識したタッチスクリーンを中心としたデザインになっており、クルマのスマホ化という観点でも最先端を走っています。ちなみに、タッチスクリーンは縦横に回転して好きな方向で使うことができます。
BYD Song Plus
3位も地元中国のBYDとなりました。Song Plus(宋、ソン) は、2位QinのSUVバージョンといっていいでしょう。BEVとPHEVが用意されているのも2位のQinと同じです。
日産 Sylphy
4位には日本から日産のシルフィーがランクインしました。驚くべきことに、販売第4位にして初めて電気自動車ではないモデルのランクインとなります。それでも日産の電動化技術e-Powerがラインナップされているので、充電こそ出来ませんが電気自動車に近いキャラクターも持ち合わせています。
エクステリアデザインは、日産がグローバルに販売しているモデルとは少し異なるテイストになっていますので、中国市場を意識して現地の好みに合わせているようです。インテリアに関しては上位3モデルに比べても日産のその他最新モデルと比較しても多少古臭さがみられますが、昔ながらのスイッチやノブを多用したデザインが一般の消費者にはタッチパネル中心のデザインよりも使いやすいと受け止められている可能性もあり、判断が分かれるところです。
ちなみに、日産シルフィーが日本車では唯一のトップ10入りとなりました。
BYD Dolphin
5位には、またしても地元中国のBYDがランクイン。BYDはトップ5に3車種がランクインという強さを見せています。
2位と3位にランクインしたBYDのQinとSongは王朝ラインと呼ばれ中国に過去存在した王朝の名前が付けられていますが、4位に入ったBYDのドルフィンは海洋ラインと呼ばれ海の生物の名前が付けられています。海洋ラインの車種にはe-Platform 3.0と呼ばれる最新の電気自動車専用プラットフォームが使用されており、他にもBYDの世界戦略モデルに採用されています。インテリアはタッチパネルを中心とした先進的なもので、小型ハッチバックとして収納場所も充実しており実用性が高そうです。
フォルクスワーゲン Lavida
6位に入ったのは、かつて日産のシルフィーと販売台数1位を争っていた売れ筋車種の常連フォルクスワーゲンのLavida(ラヴィーダ、朗逸)です。
日産のシルフィーもそうですが、販売上位に入っている中国メーカーに比べてもフォルクスワーゲン自身の最新モデルと比較しても、Lavidaはインテリアが多少古臭さくなっている感は隠しきれません。近年は販売もズルズルと落としています。インテリアは、10年以上前の典型的なドイツ車に大きなインフォテインメントスクリーンを付けただけといった印象です。この辺りは日産のシルフィーと全く同じで、販売減少の原因になっているのか保守的な消費者にはむしろタッチパネルより使いやすいと思われているのか判断が分かれるところですが、明らかに販売上位のテスラやBYDとはデザインテイストが異なっています。
BYD Yuan plus
7位には、再び中国のBYDがランクインしています。このYuan(元)は中国と南米市場で使用されているモデル名で、日本を含む海外市場ではAtto3(アット3)の名前で販売されています。車名のAttoは物理学で時間の最小単位を表すAttosecondからとっており、スピード感・エネルギッシュ・ダイナミックスを表現しているそうです。
インテリアは、他のBYDのモデルと同じくタッチパネルを中心とした先進的なデザインで中国市場で受けるのも納得がいきます。世界的にブームになっているSUVですので、このモデルがBYDの世界進出の原動力になると思われます。ちなみに、BYDドルフィンと同じくこのモデルも電気自動車専用プラットフォームe-Platform 3.0を採用しています。
ウーリン Hongguang Mini EV
8位には、48万円EVとして日本でも話題になった、ウーリンのHongguang Mini EV (宏光ミニEV、ホングァン ミニEV)がランクインしました。似たようなモデルとして独ダイムラーのスマートやトヨタのIQは超小型シティーカーのコンセプトで登場し、商業的にはそれほど大きな成功を収めませんでしたが、中国では宏光ミニEVが販売台数トップ10入りをしています。
価格的な制約もあってか、インテリアに関しては流石にスマホ化と呼べるほどの装備にはなっておらず、日本の古い軽自動車のようにボタンやノブによる操作系が中心のデザインでタッチスクリーンの搭載はありません。
宏光ミニEVは販売手法も日本の軽自動車とどことなく共通点があり、マカロンと呼ばれる女性消費者を強く意識したカラフルなシリーズやどこかで聞いたことがあるゲームボーイと名付けられたカスタムラインも存在します。また軽自動車ではあまりみられませんが、宏光ミニEVにはソフトトップのオープンカーバージョンもあります。
フォルクスワーゲン Sagitar
9位は、フォルクスワーゲン2車種目のランクインとなったSagitar(サジター、速騰)です。グローバルモデルのジェッタを中国向けにアレンジしたモデルとなっています。
SagitarもフォルクスワーゲンLavidaと同じく、一世代前のドイツ車そのままという感じで今後中国市場での販売は苦戦しそうな気配がします。
長安 CS75 Plus
10位には、地元中国勢で唯一のガソリン車となった長安汽車のCS75 Plusがランクインしました。
人気の2リッタークラスのSUVでインテリアも中国市場で人気のスマホ化が意識されており、大衆車としてヒットしているのも納得です。
まとめ
- 販売トップ10ブランドに日系はトヨタ、ホンダ、日産の3社がランクイン。
- トヨタは販売台数をどうにか維持しているが、ホンダと日産は前年比20%以上の販売減少と大苦戦している。
- モデル別トップ10中6車種はBEVとPHEVになっており電動車の人気が高い。
- 地元BYDはトップ10中に4車種ランクインしており強さを見せている。
- 車種別ランキングでは日産シルフィーが総合4位にランクイン。ガソリン車販売トップと健闘するもクルマのスマホ化という観点では、タッチパネル中心のデザインを採用する中国メーカーに対してインテリアデザインに古臭さがみられる。
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