はじめに
近年ガソリンスタンドの減少が取り沙汰されており、近所にガソリンスタンドがなくなってしまいわざわざ遠くまでガソリンを入れに行かなければいけない給油難民なる言葉まで登場しています。
資源エネルギー庁のデータを参照してみると、1994年には日本全国に60,421箇所あった給油所の数はその後27年間連続で減少し続け、2021年には28,475箇所と文字通りガソリンスタンドは半減しています。ここ10年だけでも20%以上の減少をしており給油難民が出てくるのも当然といえます。
ガソリンスタンドの減少は、日本だけではなく世界的な流れにもなっています。コンサルティング大手のボストンコンサルティンググループは、このままでは2035年までに全世界でさらに4分の1のガソリンスタンドが閉鎖されると予測しています。
EVへの対応
ガソリンスタンドにとってさらに経営を難しくしているのは、電気自動車への対応です。
ガソリンスタンドとしては今後ガソリンが不要なEVが増えていった場合に備えてEV充電ビジネスにも進出しておきたいところですが、当面はハイブリッド車などガソリンが必要な車が利用者の大半ですので、限られた店舗スペースでバランスを考えながらガソリン給油とEV充電の両方に対応するというのはそう簡単ではありません。
EV充電に対応するとしても巨額の設備投資を考える必要もあります。
ホテルやショッピングモールなどの駐車場がEV充電に対応する場合には、ユーザーが車を数時間駐車場に停めておくことが前提となるため、多少充電に時間がかかっても安価な低出力の充電器を設置しておけばユーザーにとってはそれほど不便に感じません。
ところが、ガソリンスタンドは充電するために立ち寄っているだけなので出来るだけ短時間の滞在時間に抑えなければならず、1基設置するのに500万円はかかると言われる高出力の急速充電器を多数設置するのが大前提となります。
EV充電器のレベル
自動運転のレベルを定義したことでも知られる自動車業界団体であるSAE(The Society of Automotive Engineers)では、EVの充電器もその性能によってレベル1から3までを定義しています。
レベル1
レベル1は、アメリカの120Vコンセントから直接充電できるチャージャーです。普通のコンセントを電源にできるのでどこでも使える手軽さがありますが、充電スピードは遅く1時間あたりEV走行5キロメートル分程度の充電をするのがやっとです。それでも一晩充電しておけば日常の買い物には十分な走行距離が確保できます。
例えばレベル1に相当するテスラのモバイルコネクターは、1.3kWの出力で1時間あたり約5キロメートル走行分の充電が可能です。
レベル2
レベル2は、240Vの電圧によりレベル1の充電器に比べて3から4倍の電流を扱えるチャージャーです。これによりレベル1よりも時間あたり6から8倍多くの電気を充電できます。これがホテルやショッピングモール、時間貸し駐車場などで見られるEVチャージャーです。
注意しなければいけないのは同じレベル2でも電流24アンペアの6kW仕様のチャージャーから80アンペア19.2kW仕様まで性能に3倍も幅があることです。それでも家の電気系統を工事してレベル2のチャージャーを設置できれば1時間で20から50キロ走行分の充電ができるので、大容量バッテリーを積んだEVも家での充電だけで使いこなせるようになり、ガソリン車の完全な置き換えも可能になってきます。
例えばレベル2に相当するテスラのウォールコネクターは、11.5kWの出力で1時間あたり70キロメートル走行相当の充電が可能です。
レベル3
レベル3は、最新のものでは400Vや800Vの高電圧で直流電流を使って充電するチャージャーです。通常はこれが高速道路やガソリンスタンドに設置される充電器です。レベル3のチャージャーも性能には幅があり、50kWから最新のものでは350kWという高性能なものまであります。ただしEVの側も高出力の充電に対応している必要があります。
例えば日産リーフの2023年モデルではバッテリー容量40kWhモデルで急速充電の出力50kWが上限となっているため、充電器側が50kW以上の出力に対応していてもそれ以上高速の充電はできません。
例えばレベル3に相当するテスラのスーパーチャージャーは、250kWの出力に対応し15分で320キロメートル走行相当の充電をすることが可能です。
EV充電器設置拡大の流れに乗るガソリンスタンド
アメリカのバイデン政権は、現在合衆国内で13万ヶ所あるEVチャージャーを50万ヶ所に拡大すると表明しており、巨額の補助金投入が見込まれています。
また日本でも、経済産業省と国土交通省により2025年度までに高速道路上の充電口数を現在の2.7倍に増やすこと、コンビニやサービスエリアへのEV充電器設置補助金増額、充電のために高速道路を一時的に降りられるようにするなど制度改正や補助金増額が発表されており、こちらも巨額のお金がEV充電インフラ整備に投入される流れとなっています。
そんな中ガソリンスタンドは、高速道路から流れてくるEV充電需要だけではなくもともと幹線道路沿いなど途中で立ち寄ってEVを充電するのに適した場所で営業していることが多い上に、トイレや海外の場合コンビニやカフェが併設されていることも多く、充電をビジネスとする場合に有利な面が多いです。
当然、石油大手やガソリンスタンドは、EV充電を新たなビジネスにしようと動きを見せています。
石油大手のシェルは、2025年までに全世界で7万ヶ所、2030年までに20万ヶ所の充電スタンドを運営する計画だそうです。2022年には、イギリスのロンドンにあるフルハム地区のガソリンスタンドをプラグインハイブリッドなどを含むEV充電専用スタンドに改修しています。ガソリンの販売は終了し、9基の175kW急速充電器を備えるシェル・リチャージブランドの充電スタンドとして100%再生可能エネルギーを使った新たに営業形態に改められました。
それでも、全てのガソリンスタンドがEV充電対応して生き残れるのかは未知数です。EVは80%が自宅で充電されると想定されており、従来買い物で使われていたような車の日常的給油をターゲットにしていた住宅地のガソリンスタンドでは充電の需要が見込めないかもしれません。
日本のENEOSの対応
日本のエネオスもEV充電への進出を進めています。
2022年にはガソリンスタンド(サービスステーションと呼ぶ)に急速充電器を設置し、ENEOS Charge Plusというサービスを開始しています。2030年までに最大1万基の急速充電器設置を目指すそうです。内訳は、半数の5000基がガソリンスタンド内への設置で残り半数は商業施設とコンビニや自動車ディーラーなどを想定しており、現在主に設置を進めているのは50kWの急速充電器のようです。
ただし以下に挙げる消防法上の規制により、7割のガソリンスタンドは対応が難しいとしています。こちらも全てのガソリンスタンドがEV充電ビジネスで生き残れるわけではないことを示しています。
- ガソリン給油機(計量機)から6m以上離す
- 通気口から1.5m以上離す
- 給油空地と燃料タンク上は設置不可
- 監視カメラと監視モニターの設置による常時監視
- サービスルーム内に緊急遮断スイッチ設置
テスラスーパーチャージャー
自前でEV充電インフラの整備を進めるテスラは、北米において自社以外のメーカーへもスーパーチャージャー充電インフラ網を解放しており、2030年までに年間200億ドルの売り上げをもたらすとの試算まで出てきています。
EVはただでさえ自宅で充電できる上に、自動車メーカーでさえEV充電ビジネスにおいてはガソリンスタンドのライバルになるということです。ガソリン車のエネルギー供給を完全に支配していたガソリンスタンドビジネスに比べると充電ビジネスの競争はかなり厳しいことがわかります。
まとめ
- ガソリンスタンドは減り続けており何らかのビジネス改革に迫られている。
- EV充電ビジネスが世界の石油大手に注目されている。
- その立地によって充電ステーションとして生き残れるガソリンスタンドとそれ以外に分かれる可能性が高い。
- そもそもEV充電ビジネス自体が現在のガソリンスタンドビジネスよりも相当市場規模が小さいことが想定される。
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