ランボルギーニのEVは生き残れるか。ランザドールEVコンセプトから読み解くスーパーカー存続の難しさ。

欧州動向

ランボルギーニに迫る電動化対応のプレッシャー

欧州では内燃機関を使用した新車の販売禁止を打ち出す国や都市が出ており、内燃機関が一番の売りであるスーパーカーにとっては将来の雲行きが怪しくなっています。そんな中、スーパーカーメーカーの筆頭ともいえるイタリアのランボルギーニがピュアEVの新コンセプトカーを発表しています。

2023年現在のランボルギーニは、SUVのウルス(Urus)、スーパースポーツカーのウラカン(Huracan)、プラグインハイブリッドスーパーカーのレヴエルト(Revuelto)と3車種をラインナップしていますが、今回新たに発表されたランザドール(Lanzador)は、ランボルギーニ第4のモデルにして初のピュアEVとなるモデルです。

ランボルギーニは、2028年にこのランザドール・コンセプトをもとにしたモデルを実際に量産発売する予定としています。すでにプラグインハイブリッドを発売しているランボルギーニですが、内燃機関を搭載しない完全なBEVを出すというのは象徴的な出来事であると同時に、スーパーカーメーカーが内燃機関禁止後の世界でどう生き残っていくのか試されている状況でもあります。

ランザドールEVの中身

ランザドールは2+2シーターの4座構成になっており車高が比較的高いデザインになっていますが、ランボルギーニによるとこのモデルはSUVやクロスオーバーではなく、ウルトラGTという新しいジャンルの車という位置付けだそうです。ランボルギーニらしいハイパースポーツカーとしての性格を持ちながら日常使いもできる車を目指しているようです。

もちろんランボルギーニである以上、パフォーマンスは一切妥協していません。

細かなスペックは発表されていませんが、2つのモーターで四輪駆動を実現し最高出力は1メガワット以上(馬力にして1341馬力超え)と発表されています。ハンドリング面もリアアクスルにeトルクベクタリングを採用とスポーツ性能へのこだわりは消えていません。

ランボルギーニとしては、車両全体の運動統合制御を行うオールアクティブコントロールシステムを開発して他社との差別化を図る戦略だそうです。オリジナルのランボルギーニは巨大なエンジンを積んで最高速一本勝負みたいな世界観だったと思いますが、近年のランボルギーニの流れを汲んだ洗練されたスポーツカーの方向性でBEVも開発していくのだと読み取れます。

実際にランザドールでは、ステアリング上のスイッチ類で運動制御システムの特性を調整可能だそうで、ランボルギーニいわく内燃機関のスーパーカーに比べても一段レベルが高い走行挙動を実現できるのだそうです。具体的にランザドールでは以下のような機能が発表されています。

1、ドライビングダイナミクス制御

イタリア語でLamborghini Dinamica Veicolo Integrata (LDVI) と名付けられたドライビングダイナミクス制御システムの採用。

2、アクティブエアロダイナミクス制御

ランボルギーニの既存モデルであるウラカンやアヴェンタドールで採用されているALA (Aerodinamica Lamborghini Attiva) システムを採用。アーバンモードでは航続距離が最大になるように、スポーツモードではダウンフォースが最大になるように、状況に応じて空力性能を変化させる。

3、アクティブサスペンション

エアサスペンションとアクティブ後輪ステアリングの採用。

デザイン

エクステリアは一眼でランボルギーニと分かるデザインで、従来からランボルギーニの魅力になっている男の子が大好きなスーパーカーのデザインそのもので好感が持てます。BEVということもあり床下にバッテリーを敷き詰める都合もあるのでしょう車高は高めで、これが従来にない新しい車という印象も同時に与えています。

フロントデザインはEVと言われなければ全く気づかない、まさにランボルギーニそのものです。

リアデザインは、どこかレトロフューチャー感のあるデザインで、あちこちのBEVで採用されているクロスバー式リアライトではないので、こちらもEVだと言われなければ一見しては分からないデザインになっています。

内装に目を移すと、ステアリングもヨークではなく、ステアリングホイールの形状に車両ダイナミクスコントロールの設定を調整するためのボタン類やヘッドライト・ウインカーのボタンなどが確認できます。

ランボルギーニらしい遊び心も引き続き健在で、スタートボタンは危険な香りがする赤いカバーで保護され、異星人の設計した宇宙船から飛び出してきたかのような操作インターフェイスはエアコンの操作スイッチでしょうか。

リリースされている写真を見る限り、いわゆるナビ画面に当たるセンターコンソールのインフォテインメントスクリーンは見当たりませんが、助手席側にディスプレイが確認できます。また電子ミラーのディスプレイも両脇に設置されています。

この方向性でランボルギーニは生き残れるのか

さて、ランボルギーニはランザドールの示す方向性で、電動化時代も生き残れるのでしょうか。

やはり従来ランボルギーニの大きな魅力だった大排気量のエンジンがないのは大きな痛手です。ランザドールでは最高出力1メガワット以上という表現を使っていますが、果たしてライバルの高出力モーターを持った車とどれだけ違いが出せるのか、電気モーターの出力勝負でユーザーを惹きつけるのは難しいように見えます。

それを分かってかランボルギーニもハンドリングや車両ダイナミクスの方面に差別化要素を見出そうとしているようですが、トヨタが2026年発売予定の「車屋が作るBEV」というコンセプトもアリーンOS上でソフトウェアを使って車の乗り心地を調整できるようにすると説明されており、詳細は不明ながら目指している方向性は同じだと思われます。

宇宙船をモチーフにしたようなランザドールのデザインも今すぐに発売されればカッコよく見えますが、果たしてテスラのサイバートラックやソニーホンダのアフィーラから数年遅れてこのようなデザインの車が2028年に発売されたとして未来の車に見えるかは大きな疑問です。むしろ、過去からやってきた車に見えるかもしれません。

こうしてみると、ランザドールは細かいデザイン要素で未来感を演出しているものの、車の基本構造自体がガソリン車時代のスーパーカーの文脈から変わっていないことがわかります。良い意味で昔からランボルギーニがやっていることを繰り返しているに過ぎないのです。

つまり排気ガスゼロの動力機関としてBEVは採用するものの、基本設計はクラシックなランボルギーニのレシピを維持しており、現状を破壊して新しいものを提案するというよりもその歴史に価値を置いているのでしょう。考えてみればイタリアの小規模生産メーカーが生き残る道は、機械式腕時計のように新しさよりも歴史を重視した売り方にしていくしかないともいえます。

中国の新興EVメーカーのようなフルデジタルのITガジェット的な方向に向かわなかったランボルギーニは、間違いなく電動化時代も独自のキャラクターで生き残っていくのではないでしょうか。

まとめ

  • 大排気量スーパーカーメーカーも時代の流れでEVを発表。
  • 内燃機関という最大の持ち味を失い、ハンドリング性能などに活路を見出す戦略が見て取れる。
  • EVであってもフルデジタルのスマホ化路線ではなく、機械式腕時計のような歴史と伝統を売りにすることでランボルギーニは生き残っていけるのではないか。

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