2024年版アメリカのEV補助金制度と対象車種一覧。補助金ゼロの日本車勢はどう対応するのか。

北米動向

アメリカにおけるEVへの補助金

背景

世界各国が電気自動車に対する補助金を用意してEVシフトを推進している昨今ですが、アメリカも例外ではありません。

アメリカにおけるEVへの補助金は意外と早くから行われており、EV購入に対する金銭的な補助を2000年代初めから行っています。

なかでも2005年に施行されたEnergy Policy Actが2024年現在も続くEVに対する補助金の原型になっており、消費者がハイブリッド車や電気自動車を購入する際にTax Creditという免税証明のようなものを使って自動車購入金額の一部を実質的に値引きすることが可能でした。

当時アメリカの国策であった環境対応や輸入石油への依存低下を目的とした政策です。

続いてバイデン政権下の2022年に施行されたInflation Eeduction Act(IRA)が、現在のアメリカにおけるEV補助金の方向性を決定づけました。

補助金の対象が大幅変更され、実質的に北米製EVだけが対象となったのです。

補助金対象となるための主な条件が以下の通りです。

  • 北米(アメリカ、カナダ、メキシコ)製EVでバッテリーなど部品の製造国にも制限が付く。バッテリーは部品と原材料の50%が北米製であり中国を含む特定国の原材料を使用している場合は補助金対象外。

明らかに中国を排除しアメリカ圏内にEV向け重要部品のサプライチェーンを構築する意図がみてとれます。またバッテリーはレアアースを含む貴重な資源の塊であるため、安易に海外に流出しないよう中古EVにも補助金があるという特徴があります。

EV購入に対する補助の金額

さて、アメリカにおけるEV補助金ですが、全額適用された場合の金額は以下の通りです。

  • 新車:7500ドル
  • 中古車:4000ドル

ただし、裕福層がこの補助でさらに金銭的に潤うことがないように一定以上の収入がある場合は、補助対象外となります。

  • 年収15万ドル以下

高級車も対象外となります。具体的には下記の金額以上の車は補助の対象外です。

  • SUVやピックアップ:8万ドル
  • セダンやハッチバック:5万5千ドル

また、この制度はあくまで税金が減額されるという趣旨ですが、Tax creditをディーラーに渡すことで車を購入する際にその場で価格を値引きしてもらうことが可能なため、税金の支払い時まで待たずにすぐにメリットを享受できるのも特徴です。

ちなみに、2024年以前の制度では各自動車メーカーは20万台補助金を受けるとそれ以降補助が受けられなくなる仕組みでしたが、台数制限はなくなったため過去に上限に達していたGM、トヨタ、テスラも再度補助金が受けられるようになりました。

対象車種一覧

それでは2024年の時点でアメリカのEV補助金対象になっている車種を見てみましょう。

シボレー Bolt EV

GMからはシボレーブランドの2車種が対象に選ばれています。

1台目は、シボレーのコンパクトハッチバック電気自動車Bolt EVです。

アメ車における量産型EVの先駆けとなったモデルが順当に補助金対象に選ばれた格好です。

出典:GMウェブサイト

シボレー Bolt EUV

GMから2台目は、シボレーBolt EVのSUV風モデルに当たるBolt EUVです。

出典:GMウェブサイト

GMからは現在はこの2車種がアメリカのEV補助金対象となっていますが、会社のロゴをコンセントをモチーフとしたものに変更してまでEV化を推し進めているため、キャデラック・リリック、シボレー・エキノックスEV、トレイルブレイザーEV、シルバラードEV、GMCシエラEVについてもEV補助金対象になるよう部品の仕様などを調整しているようです。

これにともなって、GMとの共同開発でホンダから発売されるプロローグとアキュラZDXも補助金対象になるといわれています。

フォード F-150 Lightning

アメリカを代表する車といっても過言ではないフォードのF-150。このピックアップトラックの電気自動車バージョンに当たるLightningも、補助金対象となっています。

一方、同じくアメリカを代表する車フォード・マスタングの名を冠したEVのMach-Eは、バッテリーの一部を中国から供給されているため補助金の全額支給対象外となっています。

出典:フォードウェブサイト

リビアン R1T

アメリカで特に人気のあるピックアップトラックとSUVに特化した新興EVメーカーであるリビアンからも2車種が補助金の対象に選ばれています。

同じく新興EVメーカーのテスラにピックアップトラックがなかったスキをうまく突いたR1Tが、EV補助金でもしっかりと対象車種に選ばれています。

出典:リビアンウェブサイト

リビアン R1S

リビアンから2台目は、R1Tピックアップトラックの兄弟車に当たるSUVのR1Sです。

出典:リビアンウェブサイト

テスラ モデル3 モデルX モデルY

現在のEVシフトの源流ともいえるテスラも当然EV補助金の対象となっています。

ただしすべてのモデルが対象になっているわけではなく、大型セダンのモデルSが対象外になっているのと、モデル3もスタンダードレンジモデルは対象外となっています。

クライスラー パシフィカ

補助金はピュアバッテリーEVだけではなくPHEVも対象となります。

BEVがないクライスラーからはパシフィカのPHEVがミニバンとして貴重な補助金対象となっています。

出典:ステランティスウェブサイト

ジープ グランドチェロキー

クライスラーと同じステランティス傘下のジープからは2車種が対象となっています。

中型SUVとして人気のグランドチェロキーのPHEVが補助金対象となります。

出典:ステランティスウェブサイト

ジープ ラングラー

こちらもアメリカを代表する車といってよいジープのラングラーのPHEVも補助金対象となっています。

出典:ステランティスウェブサイト

フォード エスケープ

BEVとしてF-150が対象となっているフォードは、人気のコンパクトSUVエスケープのPHEV版も補助金対象となっています。

出典:フォードウェブサイト

リンカーン コルセア

フォードの高級車ブランドであるリンカーンからは、フォード・エスケープとプラットフォームを共有するコルセアのPHEVが補助金対象となっています。

出典:フォードウェブサイト

日系メーカーの対応

このように、アメリカにおけるEV補助金の適用を受けるには現地のサプライチェーンに貢献しないとならないルールとなっているため、現状アメリカのブランドしか対象に入っていない露骨な制度になっています。

これを受けて日本の自動車メーカーもこぞって北米でのEV製造とバッテリー調達を行う将来計画を次々に発表しています。

トヨタ

  • ノースカロライナ州にバッテリー工場を建設
  • ケンタッキー州の工場にEV製造ラインとバッテリーパックの製造ラインを新設

日産

  • ミシシッピ州の工場でEVとバッテリーパックの製造を計画
  • バッテリーセルの製造を北米で行うことを検討
  • メキシコ工場でもEVの製造に対応予定

ホンダ

  • オハイオ州にLGと協力してバッテリー工場を新設
  • ホンダのEVプロローグとアキュラZDXはGMとの共同開発で補助金対象となる予定

スバル

  • インディアナ州にEV生産工場を計画

マツダ

  • 北米でのEV生産能力構築に投資予定

まとめ

  • アメリカのEV補助金は単純にEV購入を援助しているのではなく、中国を排除しアメリカ圏内にEVのサプライチェーンを構築する戦略的意図を持った制度になっている。
  • 実際にアメリカの国策通り次々と北米にEV関連工場が建設されており、アメリカはしたたかにEVブームを利用してモノづくりの現場を国内回帰させることに成功している。
  • 日本車のなかでは、ホンダのみGMと共同開発したプロローグとZDXが補助金対象となる予定。

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